江口寿史のインスタグラム(egutihisasi) - 11月2日 13時06分


荻窪の丸長が廃業した。
その一報がネット上を駆け巡った時、SNSはこの老店を愛する人たちの悲鳴のような哀惜の声で溢れかえった。どれほど多くの人にこの店が愛されていたのか。
「丸長を食べたい」と思い立つ日は、何がなんでも丸長を食べたい日だった。「何にしようかなー、丸長でいいか」などという生半可な選択や惰性で行くような店では決してなかった。「つけ麺やラーメンを食べたい」のではない。「丸長が食べたい」のであって、それ以外の選択肢は無かった。
この店に集まる人のそんな強い思いが、毎日のあの長い行列を生んでいたのだろう。本来並ぶのが嫌いなぼくもこの店には黙々と並んだ。

思い返せば丸長の行列は静かだった。ペチャクチャ喋りながら待つ人はいなかった。一人客が多かったのもあるが、皆静かに順番を待っていた。
店に入ると空いてる席に勝手に座らない。
店のおばさんに指定された席に着いても、すぐに注文はしない。
新聞やスマホをみながら「ラーメン」なんておざなりな注文する客もいない。
おばさんが水とおしぼりを持ってきて、初めて注文をする。それはこの店の暗黙のルールであり、客も店側も静かにそれを遂行していた。しかしそこには押し付けがましさや緊張を強いる高圧さは微塵もなく、客と店と一緒になって大切な何かを守っているような厳かささえあった。
行列に並ぶこと。メニューを見ながら何にしようかとギリギリまで迷うこと。焼売とビールが目の前に置かれた時の高揚。つけ麺を食べる時の陶然。食べ終わった椀を皿に乗せておじさんの前に持って行きスープで割ってもらう所作。全部ひっくるめての丸長であり、他に代え難い幸せな時間だった。自分を構成するひとつのピースとしてあの時間があった。
ピースは消え二度と埋まる事はないが、そこに空いた空洞は幸せな時間の記憶としていつまでも残るのだろう。

写真は、順番を待つぼくを、偶然仕事中の車で通りかかった、同じく丸長ラバーのOPMMくんが車中から撮ったもの。こんな顔してぼくは待っていたんだな。


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2023/11/2

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