平泉春奈のインスタグラム(hiraizumiharuna0204) - 8月20日 20時11分




『果てない海の中へ』


寄せては返す波の音と
どこまでも続く水平線。
それは、私を丸ごと呑み込んで
自分の存在そのものを
不確かなものに変えようとしていた。

怖い……

突如襲った不安と恐怖は
私を衝動的に突き動かした。
隣に座っていた彼の太腿に跨り
脇目も振らず、抱きつく。

「え?……ちょっと……」
驚く彼の言葉を遮るように
冷え切った自分の唇を
彼の唇に強く押し当てる。
体温を感じたくて
今、私は生きているのだと
実感したくて
必死に舌を彼の中に潜り込ませ絡ませる。
フワリと磯の香りが口中に広がったが、
徐々に馴れ親しんだ彼の香りに包まれた。

最初はされるがままだった彼は
段々と私の想いに応えるように
自ら舌を絡め始めた。
海に呑み込まれ
消えてしまいそうだった心も身体も
彼の元へ戻されていく。
心の底から安堵し
泣き出しそうになった。

彼は唇を少しずつ下にずらして
首筋に舌を這わせた。
そこでピタリと動きが止まり
何かを思い出したかのように
突然、笑い出した。

「ふっ……しょっぱ。母さんのオニギリ思い出す」
「……え?何それ」
いきなり現実に引き戻されて思わず口元が緩む。
「俺の母親が作るオニギリがやたらとしょっぱくてさ。今のお前、あの時と同じ味」
そう言って笑いながら耳元に唇を近づけてきた。
「オニギリもいいけど……やっぱお前の味がいいな。さっさと帰って一緒にシャワー浴びて、続きしようか?」
そう囁かれ、一気に体温が高くなっていくのを感じた。

私たちは見つめ合ってクスクス笑いながら
手を繋ぎ、海を背に歩き出した。

あの恐怖の正体はまだ知らなくていい。
今は、この果てない海の中に捨てていこう。
私は心の片隅に残る不安の種を
意志の力で握り潰した。



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引き潮って、月と太陽の引力で起こるものだけど、物凄い身体ごと持っていかれるような強い力がありますよね。その流れに身体を晒していると、妙な不安に襲われたり。
その時起こる妙な不安って、何か自分の心の底にあるものが引っ張り出されてるような気がしたんです。普段心の奥底に眠っている不安の箱が、ふと開いてしまうような……
そんな瞬間を海と共に書いてみました。
いつだって、安心できる場所があることは幸せな事ですよね。




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2019/8/20

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